お口を清潔にすると風邪をひきにくくなる? インフルエンザ予防にも“歯みがき”が大切な理由
- 2025年10月6日
- 歯周病治療
お口の清潔と風邪の関係
皆さまこんにちは。しぶや歯科医院の渋谷です。
夏も終わり、秋になり風邪のシーズンが到来してきます。今回の内容は、歯科✖️風邪(インフルエンザ)についてです。
風邪やインフルエンザの季節になると、「手洗い・うがい・マスク」が当たり前の対策として知られています。
しかし、実はもうひとつ忘れられがちな予防法があります。それが「お口の清潔を保つこと」です。
お口の中には300〜700種類もの細菌が存在し、これらは口腔常在菌と呼ばれています。
普段はバランスを保ちながら共存していますが、歯みがき不足や唾液の減少などによって菌のバランスが崩れると、歯周病菌などの“悪玉菌”が増加します。
この悪玉菌が、のどや気道の粘膜の防御機能を弱め、風邪やインフルエンザにかかりやすくすることが、近年の研究で分かってきました。
歯周病菌がウイルス感染を助ける?
歯周病菌の一部(Porphyromonas gingivalisなど)は、プロテアーゼという酵素を産生します。
この酵素は、インフルエンザウイルスが人の細胞に侵入するときに必要な“鍵穴”の働きを助けることが知られています。
つまり、
お口の中に歯周病菌が多いと、インフルエンザウイルスが体に入りやすくなる
ということです。
東京都歯科医師会と医科大学の共同研究でも、歯周病がある人はインフルエンザ発症率が約2倍という報告があります。
さらに、口腔内の細菌が増えると炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)が放出され、全身に炎症が広がりやすくなります。
この炎症反応がのどや気道にも影響し、ウイルスが粘膜に付着しやすい状態を作ってしまうのです。
唾液は天然の免疫シールド
お口の中には、免疫物質を多く含む唾液が絶えず流れています。
唾液は単なる潤滑液ではなく、「天然の免疫液」とも呼べるほどの防御機能を持っています。
唾液に含まれる主な抗菌成分
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リゾチーム:細菌の細胞壁を壊す酵素
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ラクトフェリン:細菌やウイルスの鉄を奪って活動を抑える
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IgA抗体:ウイルスの侵入を防ぐ最前線の免疫物質
これらが十分に分泌されていれば、のどや口腔内に入ってきたウイルスの多くは撃退されます。
しかし、ストレス・加齢・薬の副作用・口呼吸などで唾液量が減ると、この防御システムが弱まります。
特に秋冬は空気が乾燥し、暖房により湿度が下がるため、**ドライマウス(口腔乾燥症)**になりやすい季節です。
乾いたお口は細菌の温床となり、風邪のリスクを高めてしまいます。
医科の視点:口腔ケアで呼吸器感染を防ぐ
医科の分野でも、口腔ケアが呼吸器感染症を防ぐという研究が多く報告されています。
代表的なのが、2002年に発表された**Yoneyamaらの研究(J Am Geriatr Soc)**です。
高齢者施設で歯科衛生士が定期的に口腔清掃を行ったグループでは、
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肺炎の発症率が約1/10
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発熱やインフルエンザ様症状も有意に減少
という結果が示されました。
つまり、口の中の細菌数を減らすだけで呼吸器感染が減るということです。
また近年では、COVID-19との関連も注目されています。
歯周病がある人では新型コロナ感染時に重症化しやすいという報告もあり、慢性炎症が免疫暴走(サイトカインストーム)や血管内皮障害を引き起こす可能性が指摘されています。
お口の健康管理は、感染予防と重症化予防の両面で医科的に有効なのです。
家庭でできる口腔ケアのポイント
風邪予防を意識した歯みがきは、単に「磨く」だけではなく、菌の繁殖を防ぐ“戦略的ケア”が大切です。
① 寝る前の歯みがきは特に重要
寝ている間は唾液が減り、菌が最も増える時間帯です。
歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシを使って歯と歯の間もきれいに。
② 舌のケアも忘れずに
舌の表面につく**舌苔(ぜったい)**には多くの細菌が存在します。
専用の舌ブラシでやさしく奥から手前に2〜3回動かす程度でOK。
やりすぎると粘膜を傷つけるので注意が必要です。
③ うがい薬の選び方
刺激の強いポビドンヨード系よりも、CPC(セチルピリジニウム塩)やクロルヘキシジンを含む洗口剤が日常使用におすすめです。
当院での診療前に皆さんに使用してもらっているうがい薬はインフルエンザウイルスにも効くといわれているうがい薬になっております。
④ 唾液を増やす習慣
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水分をこまめに摂る
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よく噛む食事(根菜・野菜スティックなど)
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ガムを噛む・舌回し運動も◎
歯科医院で行う専門的ケアの重要性
家庭でのケアに加えて、歯科医院でのプロフェッショナルケアを定期的に行うことで感染リスクをさらに下げられます。
PMTC(プロによる歯面清掃)
歯ブラシでは落とせない**バイオフィルム(細菌の膜)**を除去します。
バイオフィルムは薬では除去が難しく、専門的な機器での清掃が必要です。
スケーリング(歯石除去)
歯石の表面はザラザラしており、細菌の住みかになりやすい場所です。
定期的なスケーリングで、菌の温床を取り除きましょう。
舌・唾液・口臭のチェック
舌の状態、唾液量、口臭の有無を確認し、ドライマウスの兆候があれば保湿ジェルや生活指導を行います。
免疫力を守るために「お口から整える」
風邪やインフルエンザに強い体を作るためには、栄養・睡眠・ストレス管理ももちろん大切です。
しかし、お口の清潔を保つことは免疫の土台を整えるためのもっとも身近な方法です。
私たちの体は、食べる・話す・呼吸するというすべての行為で外界とつながっています。
つまり、お口は外界からのウイルスや細菌が最初に入る“入口”であり、そこを整えることが全身の防御力を高める第一歩なのです。
まとめ:歯みがきは全身を守る予防医療
お口の中の細菌バランスを整えることで、
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ウイルス感染を防ぐ
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のどの炎症を抑える
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唾液による免疫機能を高める
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全身の炎症負担を軽減する
といった効果が期待できます。
「冬になると風邪をひきやすい」「のどがすぐに痛くなる」という方は、
歯ブラシよりも先に“お口の健康状態”を見直してみると良いかもしれません。